TOF-MSとは
MS(Mass Spectrometry)は質量分析と呼ばれる分析手法のことを指し、分析試料に強いエネルギーを加えることでイオン化し、そのイオンの質量を測定することで、その物質の構造や性質等を予測・決定することができます。MSを行う装置にはイオン化方法や、質量の検出方法によって様々な種類があります。その中でも、ニ次元電気泳動等を行った後の微量タンパク質の内部アミノ酸配列を解析する方法として汎用されているのがTOF-MS(Time Of Flight-Mass Spectrometry)です。
原理
TOF-MSでは、角度をつけてレーザーを照射してタンパク質をイオン化することにより、生じたイオンを検出器へ向けて飛ばします。レーザー照射から検出器到達までの時間を測定することでイオンの質量を算出します(リニア型)。また、飛ばされたイオンが反射板で反射されて戻ってくるまでの時間を測定することで、より検出感度を高めたリフレクトロン型も汎用されています。2002年にノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏は、TOF-MSでイオン化する際に、グリセロールとコバルトの混合物(マトリックス)を加えることで極めて効率良くイオン化できることを発見しました。その後、より性能の良いマトリックスが開発され、MALDI-TOF-MSという汎用技術となりました。
実用動向
TOF-MSは前述したように、ニ次元電気泳動によって単一状態まで分離されたタンパク質の内部アミノ酸配列を解析する際に汎用されます。遺伝子を扱う技術が進歩することで、多くの生物の全ゲノムが解読されつつあります。それはすなわち、タンパク質のアミノ酸配列が分かれば即座に対応する遺伝子を明らかにできるということです。生物の多様性は、多種多様なタンパク質の機能によって生み出されているため、タンパク質の機能と遺伝子発現の関係を調べることは必須となります。その点で、多種類のタンパク質を網羅的に分離可能な「ニ次元電気泳動法」と微量タンパク質を分析可能な「TOF-MS」の利用価値は今後も高まっていくと予想されます。
